第12問

 

(物語)

 太郎ちゃんは、幸せだった。彼女はやさしかったし聡明だった。何より、二人には明るい将来が約束されているように思えた。このごろ、太郎ちゃんは法律で身を立てる決心をしていた。それが一級建築士になろうとしている彼女のためにも、好ましいと思った。彼女も応援してくれた。大学の法職講座に通うことだって、むしろ、彼女が積極的に進めてくれたのだった。

 太郎ちゃんにとって、ときおり彼女が話す仕事上のトラブル実例は生きた勉強になった。とりわけ、今回の話は興味深いものだった。

 むかし、むかし、あるところに……というのは、冗談である。太郎ちゃんはラフカディオ・ハーンではない。

 「これはうちの建築事務所と協力関係にある不動産会社の事件なの。この不動産会社は、四ツ谷の駅の近くの物件を裁判所の競売で買い受けたそうなの。ところが、それがなんだか複雑なことになっているらしいのよね。」

 彼女の話によれば、四ツ谷の駅の近くの番町と呼ばれる地域がある。この辺りはむかしは、お屋敷町だったそうで番町皿屋敷の舞台となったところである。また、明治時代には泉鏡花なども好んで、ここを住まいとしていたとのことであった。太郎ちゃんは、後年この泉鏡花の住居跡に法政大学の交友会館が建築されていたことを知ることになるが、そのときは聞き流していた。

 「確か、この土地は、吉田一郎さんと吉田次郎さんの共有になっているの。そのうえに、お兄さんの吉田一郎が家を建てて暮らしていたのだそうだけれど、金融業者から借金をして、その担保として自宅建物のみに抵当権を設定したらしいの。ところが結局、借金が返せなくて競売になり、この建物を協力関係にある不動産会社が競売手続きで買い受けたらしいのだけれど、あくまで買い受けるのは建物だけであり、土地は買えないことが問題になるかどうか心配しているの。それに土地が共有になっていることも心配だというのよね。大丈夫かしらね。」

 太郎ちゃんは、その場で考え始めた。太郎ちゃんが真剣に考えているのを察した彼女は、すかさず、

 「もしかしたら、反対だったかもしれないわ。吉田一郎さんがひとりで所有している土地のうえに、吉田一郎さんと次郎さんの兄弟共有の建物が建っていて、吉田一郎さんはこの土地について金融業者に抵当権を設定したのだったかもしれないわ。そして、協力関係にある不動産会社は、この土地を競売により買い受けて、この土地上に自社ビルを建築したいのだけれど、それができるか心配しているとのことだったかもしれないわ。どっちのケースだったか分からなくなってしまったわ。」

 いったい、どっちなのだろう?だいたい、分からなくなったなどといいながら、どうしてこんな込み入った話を再現できるのだろう?太郎ちゃんは不思議に思った。もしかしたら、彼女は太郎ちゃんを試しているかもしれない。太郎ちゃんは、ふと、彼女を見た。

 彼女は、やさしそうに微笑んでいるばかりだった。

 

(問題)

 太郎ちゃんは、この二つのケースについて、それぞれ不動産会社の立場に立って有利な解決方法を導き出すことができるか。なお、どちらのケースに関しても、抵当権設定当時、建物に関して格別の利用権は設定されていなかったものとする。



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Edited by T.Satoh