第13問

 

(物語その1)

 幸せな毎日を送っていた太郎ちゃんであったが、突然、田舎の弟から連絡が入った。太郎ちゃんの家は大金持というほどではなかったが、それでも長年にわたり事業を行ってきており地元では信用を得ていた。その太郎ちゃんの実家が窮地に追い込まれたというのである。その敬意は、およそ、以下のとおりであった。

 太郎ちゃんの父親が経営する飯田橋製作所は、県の推進する優良企業振興プロジェクトの一環として新たに開発された県の工業団地に2年前に移転した。ここに入ることは、長期的な事業経営の観点からは大きなメリットであったが、短期的には工業団地内に新社屋兼工場を建築するなどしなければならず、むしろ、大変な損失であった。当然、その出費の大部分を県が斡旋してくれた低金利の銀行融資で賄ったが、それでも足りなかったので、太郎ちゃんの父親は、中堅の金融業者から融資を受けて不足分に充当した。ところが、この金融業者からの借り入れに際して、通常の抵当権ではなくて、譲渡担保権を設定し、建築した新社屋兼工場の建物登記簿上の所有者名義も譲渡担保を原因として、飯田橋製作所から金融業者に名義が移転されてしまったのだ。ちなみに土地は県の所有地であり、飯田橋製作所は県から、この土地を賃借し、借地権を有するのみである。

 太郎ちゃんの弟(当然のことながら、名前は飯田橋次郎ちゃんである)からの電話は続いた。

 「親父のところに県の役人がきたんだよ、兄ちゃん。その役人のいうことには、親父の会社は県の土地を借りて、その上に建物を建築したのであり、その際の契約で、県の承諾なくしては借地権を譲渡したり、転貸したりしてはいけないということらしいんだ。ところが、親父は金融業者から金を借りたときに建物名義を移転したものだから、これが借地権の譲渡に当たるというんだ。親父は、そんなつもりはないと言っているが、県の役人はなかなか納得しないんだよ。それどころか、飯田橋製作所との間の土地賃貸借契約を飯田橋製作所の契約違反を理由に解除するという内容の正式な文書まで送ってきたんだ。兄ちゃん、どうしたらいいんだ。」

 もし、この工業団地内の土地についての借地権がなくなってしまえば、おそらく親父の会社は倒産してしまうだろう。そうなれば、家族の生活もたちまち破綻してしまうのであり、自分も大学どころではなくなってしまう、受話器を握る手が自然とふるえる太郎ちゃんであった。

(問題その1)

 飯田橋製作所は、県の主張する賃貸借契約の解除の事実をそのまま受け入れなければならないか。これを拒否できる法的解釈は可能か。

 

(物語その2)

 県からの契約解除の主張の件は、ことなきを得た飯田橋製作所であったが、その後、太郎ちゃんは、再び弟次郎ちゃんから電話連絡を受けることとなった。今度の電話は、前回にもまして深刻なものだった。

 「親父の会社は、金融業者に対して借入金の返済ができなかったんだ。それで、譲渡担保権が設定されている飯田橋製作所の建物の所有権が、この金融業者に帰属してしまったとのことなんだ。親父の話では、この建物の価値は借地権を含めて約1億円であり、この金融業者からの借入金は利息も含めて3000万円しかないので7000万円の清算金はもらえるとのことだ。でも、清算金の話はまだ何も金融業者からは出ていないし、それに、この金をもらっても、会社の建物が取られてしまったら会社が倒産することは確実だよ。そうなったら、銀行などの他の借入金だって返還しなくてはならなくなるから、結局、何もかもなくしてしまうよ。今度ばかりは、親父も参っているよ。」

 太郎ちゃんは、あわてて帰郷した。そして、メインバンクの銀行に行き事情を説明の上、緊急融資を受けることができた。そのうえで太郎ちゃんは、金融業者に対して、遅滞している借用金は遅延損害金を含めて、全額、支払うので、飯田橋製作所の建物の所有権を返還してほしいと要請した。ところが、この金融業者は、すでにこの建物の所有権が自己に帰属していることを理由に、太郎ちゃんの要請に応じようとしない。なお、この話し合いの際にも清算金の支払いの件はまったく話題に出なかった。

(問題その2)

 太郎ちゃんは、この時点で、借用金を支払うのと引き換えに飯田橋製作所の建物を取り戻すことが可能か。



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Edited by T.Satoh