第18問

 

(物語その1)

 太郎ちゃんは、久しぶりに東京に戻ってきた。結局、実家に太郎ちゃんの居場所は無かった。そこで、アルバイトでもしながら東京で暮らそうと考えたのだ。無論、彼女が東京にいることも太郎ちゃんにとって重要であった。彼女には、とうとう、飯田橋製作所が倒産したことを電話で話していた。ともかく彼女に会いたいと太郎ちゃんは思った。 マンションに戻ってみると、留守中に届いていた郵便物などが郵便ポストに中に入りきらず、廊下に落ちていた。太郎ちゃん宛にいろいろな手紙、葉書が届いていたが、その中に一通、気になる葉書があった。差出人は、横浜債権回収センター代表大石一郎とあった。内容は以下のとおりである。

 「前略 当センターは、先日、貴殿に対して金10万円の売買代金債権(中古の8ミリビデオカメラ一式)を有しております小岩宏氏より右売買残代金債権全額を譲り受けました。右売買代金債権については月々1万円ずつの10回払いの約束でしたが、先月分の支払がありませんでしたので貴殿が作成した契約書の記載により期限の利益が喪失し、残金8万円を一括にお支払いいだだかなくてはなりません。つきましては、本書面到達後、1週間以内にお支払いください。
 なお、前記契約書上、債権譲渡に関しては、民法の規定を適用しないこと、よって、債権者が債権譲渡をしてもこれを債務者に通知する必要はないことが明確に規定されております。この点も念のため申し添えさせていただきます。草々」

 太郎ちゃんは、このときマンション近くのいまどき珍しい月賦販売の店から確かに8ミリビデオを買ったこと、その月賦金の支払をすっかり忘れていたことを思い出した。しかし、一括して支払うのはいかにも苦しかった。大石一郎なる人に連絡してみようかとも思ったが、面識のない人に連絡をするのは不安があったので、まず、月賦屋の主人である小岩宏さんのところを訪ねてみた。ところがである。何と小岩さんの店は倒産していた。閉められたシャッターには、「事情があって当分、店を閉店させていただきます」という紙が無造作に貼ってあった。紙の余白には、多分、債権者が書き込んだものだと思われるが、「金、返せ」とか、「それでもおまえは人間か」などというが記載があった。もっとも、「そうです。私がただのおじさんです」などという意味不明の落書きもあったが、そんなことはどうでも良いことだ。

 太郎ちゃんは、仕方なく家に帰り、8ミリビデオを買ったときに署名捺印した契約書を読んでみた。確かに毎月1万円の分割払いの約束になっていたし、月賦金の支払いを一回でも怠れば残金は全額一度に支払うことも規定されていた。そして、葉書に書いてあったように債権譲渡に関しては民法上の規定を排除し、通知承諾等の対抗要件は不要と記載されていた。

 太郎ちゃんは、何としても8万円の支払を拒みたい。果たしてそれは可能であろうか。

(問題その1)

 太郎ちゃんは、横浜債権回収センター代表大石一郎の金8万円の代金請求を拒むことができるか。なお、太郎ちゃんは売買当時、既に成年に達していたし、また、小岩宏が債権を譲渡したこと自体は事実であるという前提で検討してください。

 

(物語その2)

 そうこうしているうちに、太郎ちゃんは、もう一通、葉書をもらうこととなった。それは中橋良子という人からの葉書で、次のように書いてあった。「拝啓 私は、先日、あなた様に対して金10万円の売買代金債権(中古の8ミリビデオカメラ一式)を有しております小岩宏氏より右売買残代金債権全額を譲り受けました。右売買残代金債権については月々1万円ずつの10回払いの約束でしたが、先月分の支払がありませんでしたので契約書の記載により期限の利益が喪失し、残金8万円を一括にお支払いいだだかなくてはなりません。つきましては、本書面到達後、10日以内にお支払いください。」

 いよいよ事態が複雑になってきた。そこで、その後も、しばらくの間、太郎ちゃんは代金を支払わないでいたが、大石一郎氏の執拗な請求に根負けして、友人から金8万円を借りて支払った。中橋良子には悪いことをしたと思ったが、手紙の文面から、穏やかそうな人との印象を受けたので我慢してもらうことにしたのである。

 ところが、太郎ちゃんは、代金を支払った後に、小岩宏さんから債権を中橋良子さんに譲渡した旨の内容証明郵便を受け取った。どうやら、中橋さんは小岩宏さんの居場所をつきとめて、この内容証明郵便を書いてもらったらしい。

 

(問題その2)

 中橋さんは、債権の譲受人の内容証明郵便まで記載されているのだから、当然、自分に代金を支払うべきだと主張している。太郎ちゃんは、当該請求を拒絶することができるか。



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Edited by T.Kamamoto